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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)3609号 判決

原告

荒井信治

ほか一名

被告

高宮貴

ほか二名

主文

1  被告高宮貴は原告らに対し各金四五八万〇、六七〇円および内金各四三三万〇、六七〇円に対する昭和四六年四月二三日から、内金各二五万円に対する昭和四九年一月二四日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの被告高宮貴に対するその余の請求および被告高宮正博・同共栄火災海上保険相互会社に対する各請求はいずれも棄却する。

3  訴訟費用のうち、原告らと被告高宮貴との間に生じた部分は、これを三分し、その二を被告高宮貴の、その余を原告らの各負担とし、原告らと被告高宮正博・同共栄火災海上保険相互会社との間に生じた部分は、いずれも原告らの負担とする。

4  本判決は主文第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

「被告高宮貴(以下被告貴という。)・同高宮正博(以下被告正博という)は、各自原告らに対し各六八九万六、二一三円およびこれに対する内各六四六万六、二一三円については昭和四六年四月二三日から、内各二五万円については本判決言渡日の翌日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。被告共栄火災海上保険相互会社(以下被告共栄火災という。)は、原告らに対し各二五〇万円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言

二  被告ら

「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決および被告貴、同正博敗訴の場合は、仮執行免脱の宣言

第二当事者の主張

一  原告ら 請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四六年四月二二日午前三時頃

2 場所 福岡県嘉穂郡筑穂町桑曲橋北方八百メートル附近路上

3 事故車 普通乗用自動車(大分五は三八九号)被告貴運転

4 被害者 亡荒井孝夫(以下単に被害者という。)

5 態様と結果 被告貴は、被害者を助手席に同乗させて本件事故車を運転中、道路下に転落し、その結果事故車は大破し、被害者は、七頸椎骨折脳挫傷により死亡した。

(二)  責任原因

1 被告貴は、本件現場が冷水峠の下り坂で、見通しのきかない曲り角であるから、前方左右を十分に注視して減速徐行すべき注意義務があるのにこれを怠り、時速約六〇キロメートルのまま漫然と進行した過失により、本件事故を惹起したものであるから民法七〇九条の責任がある。

2 被告正博は、事故当時未成年者であつた被告貴の父親であるから、同人の監督責任者として民法七一四条の責任があり、また、被告正博は、昭和四六年五月二日原告らに対し、被告貴が支払うべき損害賠償債務につき、重畳的に債務を引受ける旨約した。

3 被告共栄火災は、本件事故車について、所有者である訴外片岡敏雄との間に、保険期間を昭和四五年一〇月三一日から同四七年一〇月三一日までとする自動車損害賠償責任保険契約を締結(番号A三三九一九七号)していたので、自賠法一六条により、原告らの損害を直接賠償すべき義務がある。

(三)  損害

1 葬儀費用

原告らは被害者の葬儀費用として各一五万円を支出した。

2 被害者の逸失利益と原告らの相続

被害者は事故当時二三才(昭和二三年三月一三日生)の健康な男子で、当時株式会社ホンダ中販に勤務し、年間九六万〇、三五〇円の収入を得ていたので、生活費としてその二分の一を控除し、就労可能年数を四〇年として、ホフマン式により年五分の中間利息を控除すると、同人の逸矢利益は一〇三九万二、四二七円となる。

そして原告らは被害者の両親でその相続人のすべてであるから右逸失利益の二分の一に当る各五一九万六、二一三円を相続した。

3 慰藉料

原告ら各一五〇万円を相当とする。

4 事故車の立替払損害

原告らは本件事故で全損した事故車の所有者である訴外片岡敏雄に対し、各五〇万円を被告らに立替て支払つた。

5 損害の填補

原告らは、本件事故につき被告正博・同貴から損害賠償の一部として各八〇万円を受領した。

6 弁護士費用

原告らは、訴訟代理人らに本訴の追行を委任し、その際着手金として各一〇万円を支払い、また本判決言渡日に謝金として各二五万円を支払う旨約した。

(四)  結論

よつて、原告らはそれぞれ被告正博・同貴各自に対し各六八九万六、二一三円および右から未払弁護士費用各二五万円を控除した各六四六万六、二一三円については、事故発生日の翌日である昭和四六年四月二三日から、右各二五万円については、本判決言渡日の翌日から、各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、被告共栄火災に対しては、前記人損のうち、自賠責保険金の限度で各二五〇万円およびこれに対する本件訴状送達日の翌日である昭和四七年五月六日から支払済に至るまで、前同様年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告ら 答弁と主張

(一)  答弁

(被告正博・同貴)

1 請求原因(一)(事故の発生)の事実は認める。

2 同(二)(責任原因)の1・2の事実中、被告貴が事故当時未成年者で、被告正博が同人の父親であることは認め、その余の事実は争う。

3 同(三)(損害)の事実中、原告らが被害者の両親で同人の相続人のすべてであること、事故車が訴外片岡敏雄の所有で本件事故により全損したことおよび被告らが損害賠償の一部として各八〇万円を支払つたことは認め、その余の事実は不知。

(被告共栄火災)

1 請求原因(一)(事故の発生)・(二)(責任原因)の3の事実は認める。

2 同(三)(損害)の事実中、原告らが被害者の両親でその相続人のすべてであることは認め、その余の事実は不知。

(二)  主張

(被告正博・同貴)

1 過失相殺等

(イ) 被害者は被告貴のアルバイト先の上司であり、被告貴は同人の命令に従い、それに服従を余儀なくされて本件事故車を運転していたものであり、また運転時の事情は以下に述べるとおりであつて、本件ドライブはすべて被害者が計画し、同人の指導・指示の下に行なわれたものであるから、本件事故は、被害者の自招行為というべきであり、従つて、被告らには賠償責任はない。

(ロ) 仮に賠償責任があるとしても、その割合は極めて小さい。即ち、本件交通事故の発生までの経過をみると被害者が被告貴と訴外松下定彦とに対して、別府から熊本までのドライブに誘つた(誘引の素因)。また、被害者は、右ドライブ用の自動車を同人の知人の訴外片岡敏雄より自ら借用している(準備の素因)。そして夜一一時頃別府を出発して熊本に長距離のドライブに向つた(倫理的素因)。また被害者は喫茶店で休憩後、当初熊本から直ぐに引返す予定であつたにもかかわらず、一方的に福岡を回つて朝の五時までに別府に帰ろうと言い出し、そのように定めた(帰路決定の素因)。そしてまた出発後一〇分位して、無理に被告貴に運転させた(運転強要の素因)。被告貴は初めての道であつて、福岡への道順が不明である旨被害者に話したところ、道順は指示するとのことで、またその言のとおり指示をして運転させた(指示の素因)。しかるに本件事故現場にさしかかつた際、同所は右方に曲る見通しのきかない曲り角であるから、その相当手前から、減速徐行すべきであつて、その旨の指示をすべきであつたのに、右現場の状況について不知の被告貴に対して何らの指示をせず(指示義務懈怠の素因)朝五時までに帰らないといけないと言つて、時速約六〇キロメートルのスピードで進行させた(危険の素因)ため本件事故が発生したのであつて、被害者の同乗者としての右各素因による過失の度合は少なくとも八〇パーセントを下ることはない。

2 本件事故現場の不可抗力性

事故現場の道路状況は、右カーブであるのに、路面は左が下がつていたうえ、幅約三〇センチ、長さ約二〇メートル、厚さ約五センチの砂があつたため、被告貴はハンドルをとられたもので、本件事故発生には、右道路状況による不可抗力も考えられるところ、その割合は一〇パーセント位と思料せられる。

それゆえ本件事故発生における被告貴自身の過失は第1項の被害者の過失を考慮に入れると一〇パーセントにすぎないことになる。

3 被告正博の責任の不存在

(イ) 被告貴は、事故当時大分工業大学の学生であつて、未成年者とはいえ、自己の行為に対する責任を弁識するに足る知能を有していたこと論ずるまでもないから、被告貴自身責任能力があり、従つて、その父親である被告正博が、右貴の不法行為について責任を負うべき理由はない。

(ロ) また、被告正博が、本件事故につき重畳的債務引受をした事実はない。同人が賠償額の一部を支払つたり、また利害関係人として調停(申立人は被告貴である。)に出頭したのは、事故を起した息子が未成年の学生であり、また修学上の都合もあることから、その父親として、あくまで道義的な立場から行なつたものであり、右事実をとらえて法律上の責任が発生するとするのは言い過ぎである。また被告正博は、原告らに対して三〇〇万円を支払う旨述べた事実はない。

4 事故車の弁償

本件事故車は新車価格で当時九〇万円位であつたが、事故当時までに半年位使用していたので、その価格は約三割落ちの六三万円位であつたと考えられるところ、事故直前に、被害者は、事故で車の損害が発生した場合、自己が五割、被告貴と訴外松下と二人で五割の責任を持とうと言つているので、事故車の賠償については、被害者の相続人が五割を負担すべきである。

従つて、原告らが訴外片岡に対して支払つたという事故車両代金のうち、右六三万円の二分の一である三一万五、〇〇〇円を超える金額を支払う義務はない。

(二)  被告共栄火災

被害者は、本件事故車の運行供用者であり、自賠法三条の「他人」には該当しない。即ち、被害者は、株式会社ホンダ中販の大分中古車センターに社員として勤務していたが、同社へ被告貴と訴外松下定彦が学生アルバイトにきていたことから知合いとなり、昭和四六年四月二一日右両名を長距離ドライブに誘い、最初は自己の車に両名を乗せていたが、別府で友人である訴外片岡敏雄から同人所有の本件事故車を借り受けてこれに乗替えた。そして被害者の運転でドライブをしていたが、途中で被告貴に道案内および運転指図をすることを条件に運転を交代し、同人に運転させている間に本件事故により受傷したものである。

右事情からすれば、被害者は、本件事故車について運行支配、運行利益を有していた運行供用者というべきである。そしてこのことは、被害者が仮に運転について指図をしていなかつたとしても同様である。即ち、事故車が複数者によつて運行の用に供されている場合、これらの複数者全てが運行供用者であるところ、本件事故車は、被害者らが九州一周のドライブのために運行していたものであるから、被害者が運行供用者であることは明らかである。従つて、被害者は自賠法三条の「他人」には該当しない。

三  原告ら 反論

被告ら主張の事実は否認する。

被害者は、自賠法三条の「他人」に該当し、運行供用者ではない。被害者は、本件事故車を被告貴らとドライブするため、知人から借り受けたが、このドライブが相当長時間になるため、当初から運転は三人で交代することを予定しており、被害者は、自己の運転担当区分を終え、休養中に本件事故が発生したものである。被害者が被告貴に対していちいち指図した事実はなく、現場附近は一本道であることからしても、被害者は当時、運転手たる地位を離脱していたというべきである。そして自賠法三条にいう「他人」とは、現実に運転していた者および現実に運転していた者をして絶対的に服従せざるを得ない拘束状態においた者以外のすべての者を包含するものであり、従つて、被害者は右「他人」に該当するというべきである。

第三証拠関係〔略〕

理由

第一被告貴に対する請求について

一  事故の発生と責任原因

請求原因(一)(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。そこで被告貴の過失の有無について検討する。

〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

本件現場は、筑紫から飯塚へ通ずる国道二〇〇号線路上であるが、道路幅員は七メートル、歩車道の区別のないアスフアルト道路で、白ペンキでセンターラインが引かれ、谷側の路側部にはガードレールが設置されている。現場附近は飯塚方向に向つて右側が山、左が田の下り坂であるが、道路が右方にかなりカーブしているため、前方の見通しは悪い。

被告貴は、本件事故車の助手席に被害者、後部座席に訴外松下定彦を同乗し、飯塚方向に向つて運転中、時速約六〇キロメートルの速度で現場附近にさしかかつた際、現場のカーブが急であることに気づき、ハンドルを急拠右へ切つたところ、車両の後部が左方へ振れはじめたため、更に右へ切つたが、約二五メートル前方に対向車を発見し、左に転把してこれとの衝突を避けんとしたところ、ハンドル操作を誤り、左端のガードレールに衝突し、さらに右ガードレールを乗り越えて約二〇メートル下の水田へ転落し、本件事故に至つたこと。被告貴は、本件道路を運転するのは初めてで、現場附近の地理はよく知らなかつたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右事実および前記争いのない事実によれば、被告貴は、現場附近が右へカーブし見通しの悪い状況であり、しかも、当時は深夜で同人は現場附近の地理を知らなかつたのであるから、十分曲り切れるようあらかじめ適度に減速して走行すべき義務があるのにこれを怠り、漫然と時速約六〇キロメートルのまま走行したため、本件事故に至つたものと認められる。従つて、被告貴は、民法七〇九条により、本件事故による損害を賠償すべき義務がある。

被告は本件事故は、被害者の自招行為である旨主張するので検討するに、〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

被害者は、株式会社ホンダ中販大分中古車センターに勤務していたが、三月初めから同センターで学生アルバイトとして働いていた被告貴・訴外松下定彦の二人と知合い、二人のアルバイトの終る四月二一日に、被害者が熊本までの深夜ドライブに誘い、自ら知人の訴外片岡敏雄から本件事故車を借りてきた。予定は熊本までを往復し、翌朝までに別府へ帰ることにしていたが、出発時にはドライブの費用や運転の分担等については特に決めることなく、被害者の運転で同日午後一一時頃出発した。(なお、免許証は三人共持つていた。)九州横断道路を通り翌二二日午前一時頃、熊本市内に到着したが、市内の喫茶店で朝食をとつた際、朝までには時間があるところから、被害者が予定を変更し、福岡回りで帰ることを提案し、二人もこれに応じて午前二時前頃被害者の運転で熊本市内を出発した。熊本市内を出た辺で被害者が疲れたこともあつて、被告貴に対し運転を交替するよう求めたが、同人は初めての道で地理を知らないことや、夜間で車にも慣れていないことなどから一応断つたが、結局被害者が道を教えるということで被告貴が運転を交代し、被害者は助手席で右折・左折等道順を教えながら走行中、前記認定の如く本件事故に至つた。本件事故現場の手前で被害者は、被告貴に対しカーブの存在は知らせたものの、その程度・状況および車のスピードについては特に指示はしなかつた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右各事実によれば、本件事故が被害者の自招行為であり、被告貴には賠償義務がないとする程の事情は、認めることはできない。

しかしながら、先に認定した如く、本件事故の直接の原因は、被告貴がカーブにおいて減速することなく走行したため曲り切れず、ハンドル操作を誤まつたことによるものであるが、しかし同時に同人が現場のカーブの状況を知らなかつたことも、その要因をなしていると認められるところ、右に認定した如く、被告貴は運転を交代するに際し、初めての道で地理を知らず、夜間でもあること等を理由に断つたのは、正に本件の様な結果を怖れたものと推察され、被害者が助手席で地理を教えるということで運転を交代したいきさつや、当時は深夜でそれまで、睡眠もとらずに走行してきたこと等の事情や、被害者が最年長で、また本件ドライブの主導的立場にもあつたことを合わせ考慮すると、被害者としても、単にカーブの存在を教えるだけでなく、その状況およびそれに合わせた速度についても適切な指示をしていれば、本件事故は回避できたと考えられるが、他方本来免許を持つている被告貴がその責任において運転すべきものであるし、同被告の主張する被害者が帰りを特に急がせたとの事実は認めるに足る証拠はなく、事故直前のスピードもそれ程高速とはいえない程度であつたこと等の事情を考慮すると、被害者の本件事故による損害のうち、二割五分程度を減額するのが相当と認められる。

被告は、本件事故現場が右カーブであるのに、路面は左下りとなつており、また左側部に砂が堆積していたことも本件事故の一因である旨主張し、〔証拠略〕には右主張に沿う部分が存在するけれども、しかし、本件事故の事因は前記認定の如く被告貴のスピードの出し過ぎと運転操作の誤りによるものと認められ、たとえ右事実が存在するとしても、これを理由に被告貴の責任を軽減すべき程の事情とは認められない。

二  損害

(一)  葬儀費用 各一一万二、五〇〇円

〔証拠略〕によれば、原告らは被害者の葬儀費用として少なくとも各一五万円以上支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。従つて、被害者の前記過失を考慮すると、右のうち、各一一万二、五〇〇円を被告に負担させるのが相当と認められる。

(二)  被害者の逸失利益と原告らの相続

〔証拠略〕によれば、被害者は、事故当時二三才(昭和二三年三月一三日生)の健康な男子で、株式会社ホンダ中販に勤務し、年間九六万〇、三五〇円の収入を得ていたこと、そして本件事故がなければ、今後少なくとも四〇年間は、右程度の収入を得られたものと認められるので、その間の生活費として収入の二分の一を控除し、ライプニツツ式により年五分の中間利息を控除して同人の逸失利益の本件事故時の現価を算出すると次のとおり八二三万九、三二二円(円未満切捨、以下同じ)となる。

九六万〇、三五〇円×〇・五×一七・一五九〇=八二三万九、三二二円

そして、原告らが被害者の両親で、同人の相続人のすべてであることは当事者間に争いがない。従つて、被害者の前記過失を考慮すると、原告らは被害者の逸矢利益を各三〇八万九、七四五円宛相続により取得したことが認められる。

(三)  慰藉料 各一五〇万円

不慮の事故により息子を失つた両親の悲しみは、容易に推察されるところであるし、これと前記認定の本件事故の態様、被害者の年令・職業、ドライブに至る経緯、および前記認定の被害者の過失、被告との関係等本件に現われた諸般の事情を考慮すれば、本件事故により蒙つた原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は、原告ら主張の各一五〇万円が相当と認められる。

(四)  事故車の立替払損害等 各三二万八、四二五円

〔証拠略〕によれば、原告らは本件事故車の弁償として所有者に各五〇万円を支払つたことが認められるが、本件事故車の購入価格は、カーステレオ等の備品を含め一〇四万二、〇〇〇円(登録費用、保険料を除く。)で、本件事故まで約半年程使用していたが、右は本件事故により全損したことが認められ、右認定に反する証拠はない。ところで車両全損による損害は、その購入価格ではなく、事故当時の車両の時価相当額を賠償すべきと考えられるので、右事実をもとにいわゆる定率法により耐用年数を六年として本件事故車の時価を算出すると八七万五、八〇一円となる。(尚、カーステレオ等の各耐用年数は異なるけれども、車の備品として組入れられた以上、車両と一体として評価すれば足ると考える。)そして被害者の前記過失を考慮すると、被告貴において負担すべき金額は、原告らに対し各三二万八、四二五円と認められる。

被告は、被害者が事故前に事故車の損害については五割を持つ旨述べたとして、右五割分については責任がない旨主張し、〔証拠略〕には右主張に沿う部分が存在するけれども、しかし右は、ドライブの途中に被害者の口から雑談的に出た言葉にすぎないと認められ、右をもつて本件事故の賠償の範囲まで事前に取り決めた趣旨とまで認めることはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。

(五)  損害の填補 各八〇万円

原告らが本件事故につき各八〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

(六)  弁護士費用 各三五万円

〔証拠略〕によれば、原告らは訴訟代理人に本訴の追行を委任し、その際着手金として各一〇万円を支払つた他、本判決言渡日に謝金として各二五万円を支払う旨約したことが認められるところ、本件審理の経過および前記認容額に照らし、右は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

第二被告正博に対する請求について

一  民法七一四条の責任

被告貴が、本件事故当時未成年者で、被告正博がその父親であることは当事者間に争いがない。しかし〔証拠略〕によれば、被告貴は、事故当時一九才(昭和二六年五月二日生)で、大分工業大学二年に在学中であつたことが認められ、本件証拠上被告貴が、当時自己の行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えていなかつたと認めるに足る証拠はない。

従つて、被告正博に対する民法七一四条の責任はその前提を欠き、理由がないというべきである。

二  債務引受

原告らは、被告正博は、被告貴が原告らに支払うべき賠償債務につき重畳的に債務を引受ける旨約したと主張するので検討するに〔証拠略〕によれば、昭和四六年五月二日福岡において示談交渉をした際、被告正博において三〇〇万円を支払う趣旨を述べたことや、簡裁での調停にも専ら被告正博が出頭したことが認められ、また〔証拠略〕によれば、被告正博において本件損害賠償の一部を支払つた事実が認められる。しかしながら、右の如き事実は、未成年者の息子が重大事故を起した場合、その両親がその法律的責任とは別に道義的な立場から行うことが、まま見受けられるところであり、特段の事情のない限り、右事実をもつて被告正博が原告らに対して重畳的債務引受をしたとまで認めることはできないというべきところ、本件証拠上、右特段の事情があると認めるに足る証拠はない。従つて、原告らの右主張は採用できない。

第三被告共栄火災に対する請求について

請求原因(一)(事故の発生)および同(二)(責任原任)の3の事実は当事者間に争いがない。

被告は、被害者は本件事故車の運行供用者であり、自賠法三条の「他人」には該当しない旨主張するので検討する。

本件事故に至る経緯・事故時の状況等は、前記第一(被告貴に対する請求について)の一(事故の発生と責任原因)中で認定したとおりである。

右各事実によれば、被害者は、当時株式会社ホンダ中販大分中古車センターに勤務していたが、同センクーヘアルバイトにきていた大学生の被告貴および訴外松下定彦のアルバイトが終る日に深夜ドライブに誘い、自ら知人の片岡敏雄から本件事故車を借り受けた上、二人を同乗して被害者の運転で本件ドライブに出かけたことが認められ、右事情からすれば、被害者は本件ドライブの主導的立場にあつたものと考えられ、従つて、本件事故当時事故車に対する運行支配および運行利益は、他の二人はともかくとして、少なくとも車の直接の借主である被害者が有していたことは否定できず、同人は本件事故車の運行供用者たる地位にあつたものと認められる。(本件程度の短期間の車の貸借であれば、貸主も未だ運行供用者たる地位を失わないと考えられる。)

原告らは、自賠法三条にいう「他人」とは現実に車を運転していた者および現実に運転していた者をして絶対的に服従せざるを得ない拘束状態においた者以外のすべての者をいい、被害者は事故当時運転者たる地位を離脱していたので「他人」に該当する旨主張するけれども、自賠法三条の「他人」とは、そのような運転者ないしそれに準ずる者および当該車両の運行供用者以外の者をいうと解するのが相当であり、従つて、原告らの右主張は採用できない。

よつて、被告共栄火災に対する請求は、その余について判断するまでもなく理由がないというべきである。

第四結論

よつて、原告らの本訴請求は、被告貴に対し各四五八万〇、六七〇円および右から未払弁護士費用各二五万円を控除した各四三三万〇、六七〇円に対する事故発生日の翌日である昭和四六年四月二三日から、右各二五万円に対する本判決言渡日の翌日である昭和四九年一月二四日から、各支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるのでこれを認容し、被告貴に対するその余の各請求および被告正博・同共栄火災に対する各請求はいずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条・九二条・九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

なお、仮執行免脱の宣言の申立については、その必要がないものと認め、これを却下する。

(裁判官 大津千明)

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